夫婦で仲良く眺めたり、友人や家族とワイワイ眺めたり、1人のんびり眺めたり――。桜ほど多くの日本人に愛される花もないでしょう。見た瞬間に心がスーっと緩むのは、寒い冬をようやく越えた安堵や、湧き上がる思い出が誰にでもあるからでしょう。お花見こそ、日本が世界に誇る‶贅沢な風習〟と言えるかもしれません。
かつては日本人特有の風習だったお花見ですが、今ではインバウンドを集める有力コンテンツになっており、全国各地のお花見スポットもすっかり様変わりしました。
とはいえ、日本人にとって最も身近で定番のお花見といえば、やはり「近所の公園」でしょう。時間があれば毎日でも通えます。通勤・通学の途中にも楽しめ、仕事帰りにぶらりと立ち寄ることもできます。「今年は南側の桜の枝ぶりがキレイかも」など、地元住民だけのローカルな楽しみもあります。
いつまでも変わらない近所の公園でのお花見ですが、ここ数年、そんな風景も少しずつ変わってきているように感じます。それは「ベンチでほっこり楽しむ、二人だけのお花見」の増加です。
車椅子のシニア夫婦。幼稚園の帰り道の親子。ランチついでの会社の同僚。映える写真を狙う若いカップル――。手ぶらでやってきて、気に入った桜を見つけると、そばにあるベンチに腰掛けそっと眺める。「スローなお花見」というか「マイペースなお花見」というか、少人数で静かに楽しむ人々が増えているようです。
本格的な高齢化社会を迎え、ご近所づきあいが減った今、地べたにビニールシートを広げて大勢で楽しむよりもお手軽で便利だからでしょう。
(平成最後のお花見)
いつも何気なく利用している公園ですが、そこには心を静める「植樹」があり、空気を潤す「水場」があり、足を伸ばして寛げる「芝生」があり、子どもたちが遊ぶ「遊具」があり――。街で暮らす人々の様々なニーズを満たす「シカケ」がさりげなく用意されています。
どの要素が欠けても、不思議なことに公園は不自由になり、アンバランスな空間になってしまいます。まるで空気のように、必要なモノほど普段は気に留めないもの。ベンチも、そうしたモノの1つではないでしょうか。
遊具メーカーは文字通り、すべり台やぶらんこなど「遊ぶモノ」しかつくっていないと思われがちです。しかし、ベンチや水飲みなど「遊ばないモノ」をつくり公園に設置しているのも、じつは遊具メーカーです。
お気に入りのベンチ、ありますか。