どの世界にも「ベテランの職人」っていますよね。妙に頑固だったり、反対にやたら明るかったり、異様なこだわりを持っていたり――。仕事を極めた人物には多かれ少なかれ‶強烈な個性〟があるもので、個性の数だけいろんなベテランが存在するのでしょう。
ただ、そんなベテランにも‶とある共通点〟があるように思われます。
「自分の仕事ぶりのすごさや能力に気づいていない」――。
常に秀逸な製品をつくり続けるため、周囲の社員もそれを‶当たり前〟と思ってしまうからでしょう。また本人も、完璧な製品をつくり続けるのは‶業務の一環〟であり、それが‶長年の慣習〟になっているからかもしれません。
つまり、自分のすごさに気づいていないというよりは、そこに無頓着なのかもしれません。これぞベテランのなかのベテラン、「スペシャル職人」とでも呼ぶべきでしょう。
そんなスペシャル職人が、私たち日都産業にもいます。その名は、高橋圭一(62歳)。Nittoでのキャリアは43年に及び、モノづくりの要である製造部の部長まで務めながら、やはり語り口はいたって謙虚です。
「自分は普通のことをやってきただけですから」
もちろん、普通の仕事であるはずがありません。ひとたび会社の外に出れば、誰もが彼の仕事ぶりに驚愕し、憧憬を抱き、改めて「職人ってすごい!」と思うに違いありません。今回は「自分で何でもつくってしまうスペシャル職人」のお話です。
世の中にない? それなら、自分でつくればいい
私たち日都産業は、遊具メーカー。公園にあるぶらんこ、すべり台、ジャングルジムといった製品をつくっています。もちろん高橋も普段は遊具づくりに専念しています。いわゆる工業製品と異なり、溶接など手づくりの要素が多いため、個人の能力や鍛錬がモノを言う世界でもあります。
高橋の実力は、当然ながらトップレベルにあります。ところが、彼のスペシャルなところは「遊具づくりを超えた世界」にあります。なんと‶機械そのもの〟をつくってしまうのです。自分で設計し、材料を切り出して加工し、組み立て、そうして立派に稼働させてしまうのです。
「世の中にないから、自分でつくっただけですよ」
高橋は、真顔で答えます。普通の人なら目を丸くするエピソードですが、スペシャル職人の彼にとっては日常の光景。むしろ「なぜ、これしきのことで驚くのだろう?」と、首をかしげます。
(高橋のお手製マシーン「エアーパッキン定量切断機」)
「エアーパッキン定量切断機」――。恐ろしくシンプルな名前です。もしこれが一般に売り出す‶商品〟なら、まずヒットしないでしょうね。でも、あくまでNitto内で使う専用機械。かっこいいネーミングなど必要ありません。
説明するまでもなく、この機械の役割は「エアーパッキンを定量で切断すること」。高橋が名付け親ですが、シンプルにしてストレート、彼らしい合理性や機能性が現われています。
写真では分かりづらいのですが、高さ1.6m、幅2.1m、奥行き1.6mという本格派。どこかの企業の工場に置かれていても不思議でないクオリティーです。「世の中にないから自分でつくる」という発想もさることながら、それを可能にしてしまう技術力、1人で完成させる継続力には、改めて感心させられます。
「世界でたった1つ」という贅沢
大きな機械にとどまらず、必要とあらば何でもつくってしまう高橋。例えば、彼にかかれば治具(じぐ)もまた‶自分でつくるもの〟ということになります。
(溶接する材料を固定する「溶接治具類」)
(パイプの中心にドリルで孔明けする「パイプの孔明け治具」)
治具とは、加工や組み立ての際、部品や工具の作業位置を定めるために用いる器具です。これにより、いちいち材料に印を付ける手間が省けたり、加工が容易になったりするほか、仕上がり寸法が統一されるメリットがあります。遊具づくりには欠かせない器具です。
(豊富につくった「パイプブロックゲージ類」)
ブロックゲージとは、モノの長さや厚さなどが標準寸法通りかを一目で判別するための器具です。一見すると、何気ない形状に見えます。しかし、材料などの‶基準〟を決める器具のため、自分でつくるには極めて高い技術と精度が要求されます。
「ほかにもいろんな機械や工具をつくってますよ」
高橋はごく‶当たり前〟のようにさらりと語りますが、むろんそれは当たり前のことでなく、まして簡単なことでもありません。
なぜ彼は、そこまでして自分でつくるのか。
Nittoの遊具づくりに必要だから――。それが第一義でしょう。ただ、そう思ったところで誰もが作れるモノではありません。また、誰もが必要性に気づくわけでもありません。
自分らしいモノづくりを極めたい――。
もしかすると、そんな‶個人的なこだわり〟なのかもしれません。「一切の妥協をせず、日々コツコツと働いて、お客さまに喜んでもらいたい」。そんな一途な想いが、自分で機械や工具をつくるというスタイルを生み出し、結果としてNittoの生産性アップや品質向上につながっているわけです。
世界でたった1つの「Made in Takahashi」。
スペシャル職人がつくった機械や工具がある会社って、とても贅沢ではないかと思います。
Nittoを選んだ合理的な理由
高橋の入社理由が、また独創的というか合理的であり、「こんな考え方もあるのか」と、どこか納得してしまう説得力を持っています。
「決してモノづくりが1番好きだったわけではないんです。それは他にあって、1番好きなコトは趣味として取っておこうと決めてました。だって、趣味を仕事にしてしまったら、つまらないでしょう? じゃあ自分は何が得意なのだろう、自分が2番目に好きなコトは何だろうと考え、その答えが『モノづくり』だったというわけです。その方が仕事は上手くいくというか、ちょうど良いバランスのような気がしたんです」
自分の関心や能力を客観的に見定め、それがもっとも花開くだろう道を選択し、こうと決めた働き方を一途に貫き通す――。20歳そこそこだった若者の決断には、すでにスペシャル職人になるべき‶素質〟が詰まっていたように感じます。それは「なぜNittoを選んだのか」という点においても共通します。
「モノづくりするなら、大企業は自分に合わないと思ったんです。流れ作業のなか、毎日一緒のコトを繰り返すのはつまらないと思いました。それに対して中小企業なら、いろんな仕事ができるかもしれない、大きな仕事を任せてもらえるかもしれないと考えたんです」
ちなみにNittoを選んだ理由は、家が比較的近かったから。偶然の出会いですが、それは高橋にとっても、私たち日都産業にとってもハッピーなことだったのではないでしょうか。おかげで素晴らしい製品が数多く生まれたわけですから。
(巨大マシーンも高橋ならお手のもの「ぶらんこ吊席 組立・検査機械」)
(電子制御システムまで手づくり)
「中小企業ならいろんな仕事ができるかも」という高橋のイメージは、当たっていたのかもしれませんね。自分で機械をつくるだなんて、恐らくほかの企業ではできなかったでしょう。自由な社風のNittoだからこそ、職人がパワフルだからこそ、可能だったと言えます。
ダイナミックな仕事と、センシティブな感性
高橋の‶本業〟にも少々触れておきましょう。遊具づくり43年というキャリアで「印象に残っている仕事」を尋ねたところ、2つの興味深い答えが返ってきました。1つは、50メートを超える巨大なコンビネーション遊具です。
(50メートルもの巨大遊具「ゴールデンステーション」)
まさにモンスター級のスペシャルな遊具。現代にはない圧倒的なスケール感が際立ちます。つくる方もワクワクしたのでしょう、高橋を含めたNittoチームは、この巨大遊具をわずか1カ月で完成させたそうです。
ダイナミックな記憶が印象に残る一方、「相当の技術が要求される」「つくるのがかなり厄介」といった‶職人心をくすぐる遊具〟も忘れられないと言います。
「例えば『Y型すべり台』なんてのは、ニットのオリジナル製品なんですけどね、すべり面が絶妙に曲がっているから、これに合わせて各パーツも曲げなくちゃならないんです。簡単に言えば、プラモデルのパーツ1つひとつをその場で曲げながら、合わせながら、組み立てるようなもんです。ただ、実際のパーツは鉄製だから、かなり面倒だし、繊細な作業が続くし、でもそんな難しさがかえって面白かったですね」
(激レアな姿に隠れファンも多い遊具「Y型すべり台」)
ダイナミックな仕事ぶりと、センシティブな感性と。
仕事を楽しみつつ自分の欲求を満たすのが、スペシャル職人のコツのようです。
いつか誕生する? 夢のような「自動遊具製作機」
「野望ですか? それはやっぱりロボットじゃないでしょうかね。ロボットと言っても、歩行したりするタイプでなく、全自動で遊具を勝手につくってしまう『自動遊具製作機』みたいな奴です。面倒な作業もいらず、ミスもなく、自動で理想の遊具が完成してしまうなんて、まさに夢のような世界じゃないですか。今にはない画期的な遊具が生まれるはずですよ」
AIやテクノロジーが進化した将来なら、決して夢物語ではないのかもしれません。もし、そんなロボットが誕生したなら、高橋はどんな遊具を生み出すのでしょうか。じつに気になるところです。さすが「何でも自分でつくってしまう」彼ならではの、豪快にして合理的な野望。
と、思いきや...。
よくよく聞くと、事情がちょっと異なりました。
「いやいや、その機械そのものをつくりたいんです。『自動遊具製作機』をつくりたいんですよ。3本のロボットアームを動かして、全てプログラミングで稼働する奴を」
(陰になり日向になりNittoを支える「高橋圭一」)
スペシャル職人がいるNitto。
80周年を迎えた今、さらに発展しそうな予感がします。
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