「ユニバーサルデザイン」という言葉をご存知でしょうか。意味としては「年齢や能力や状況にかかわらず、できるだけ多くの人が利用できるデザイン」というもの。ちょっと難しいですね。分かりやすく言えば「誰にとっても、最初から使いやすい」ということです。
似たような概念に「バリアフリー」があります。こちらは障害者や高齢者など「誰か」を決めたうえで、「後から使いやすくする」という点で、大きく異なります。つまり、ユニバーサルデザインの方がより‶人に優しい発想〟と言えるでしょう。
ユニバーサルデザインのよく知られた例に、駅や公園の「多機能トイレ」が挙げられます。広々としたスペースに、どんな位置や姿勢からも使いやすい便座があります。乳幼児用ベッドがあり、ボタンの位置にも工夫があって、車椅子の人、赤ちゃんを連れた保護者、杖をついた高齢者、もちろん健常者も含めて「誰にとっても、最初から使いやすい」デザインになっていますよね?
さて、あまり知られていないのですが、じつは遊具にもユニバーサルデザインという発想があります。考えてみると一理あります。なぜなら遊具は、「どのような子どもにとっても、最初から使いやすい」のが理想的です。
公園も、あらゆる条件の子どもたちに利用してもらいたい――。
Nittoはそんな想いから、全国各地にいろんなユニバーサルデザイン遊具を設置してきました。日本でユニバーサルデザインという言葉が広く知られるようになったのは1997年頃であり、それと比べてもかなり早い対応でした。そして、今でもこの分野のパイオニア的な存在です。
それでは、一般的な遊具と一体どこが違うのでしょう。今回はそんな「ユニバーサルデザイン遊具」の事例紹介です。
低く、どっしり感のある独特のフォルム
近年人気を集めるのは、すべり台や雲梯やロープといった様々なアイテムが‶1つの遊具として合体〟した「コンビネーション遊具」です。ワンストップでいろんな遊びが楽しめる、言わば‶贅沢な遊具〟であり、子どもや保護者だけでなく自治体からのニーズも高まっています。
そんな贅沢な遊具を、ユニバーサルデザインでもお届けしたい――。こんな発想から生まれた製品シリーズが「ユニバーサルコンビ」。まずご覧いただきたいのは、コンビネーション遊具の全体像。車椅子からでも利用しやすいよう、全体的にデッキを低くしているのが最大の特徴です。
(独特の低いフォルムが注目を集める「ユニバーサルコンビ」)
「こんなに低いの? まるで地面を這うみたいで、不思議なデザインね」
見たことのない低いフォルムは、やはり多くの子どもや保護者には新鮮に映るようです。それもそのはず、一番高いところでも80㎝しかありません。しかし、この低さこそがポイント。車椅子を利用する子どもも、基本的にすべてのアイテムで遊べるよう設計されているためです。
背の高いコンビネーション遊具を見慣れた目には、最初はやや物足りなさを感じる子どももいるようです。ところが、低いからといって楽しさが半減したわけではありません。むしろ、低いゆえの遊び方やユニバーサルデザインならではのユニークな仕掛けに、子どもはすぐに夢中になるようです。
「この公園、面白い!」
一度体験すれば、面白さが沢山あることに気づくのです。ちなみにこちらの遊具は、埼玉県ふるさと創造資金からの補助金により、埼玉県伊奈町にある「中部公園」に設置されました。アイテムの幾つかを見てみましょう。
這って遊べる体験に、子どもは夢中
今回のユニバーサルコンビは、幾つものアイテムが三日月のように連なった「三日月ゾーン」と、小さな島のように独立した「島ゾーン」の2つから構成されています。まずは三日月ゾーンをご紹介しましょう。
(這って遊ぶためのこだわりがいっぱい)
写真中央にある波状のデッキが「ウェーブわたり」、その左に続く緑のデッキが「カーブわたり」です。横から見ると、より遊具全体の低さが実感できるかと思います。2つのデッキは歩いて渡っても良いのですが、そこはユニバーサルデザイン。車椅子の子どもが遊ぶための様々な配慮が詰まっています。
例えば、這って進めるように「ウェーブわたり」のデッキの両サイドには手すりを設けています。一方の「カーブわたり」は、写真では見づらいのですが、デッキに等間隔の穴が空いています。穴に手をかければ這って進むことができるため、泳ぐように進んだり登るように進んだりと、異なる遊びが楽しめるというわけです。
写真左に見えるのは黄色の「ワイド階段」。幅が広く傾斜がなだらかなため、通常の階段に比べて昇り降りがしやすくなっています。
(ちょっとした思いやりこそ遊具の優しさ)
ゲートのついた赤いデッキは、遊具の「出入口」にあたります。車椅子の座面と同じ高さのため、出たり入ったりが楽にできます。また、子どもが独力で移動できるように手すりも付けています。
*デッキ下のステップがないタイプも用意しています
「このゲートを見ると、何だか優しい気持ちになります」
出入口であるゲートは、遊具のコンセプトを現わすシンボルそのもの。「誰でも遊びにきてね!」という想いを込めたデザインは、さりげないながら子どもにも伝わるようです。
ユニバーサルならではのオリジナリティ
次は独立した「島ゾーン」ですが、全景は下のようなもの。黄色の幅広なすべり台があるものの、やはり目が向かうのは豊富なイラストの数々でしょう。遊具にしては珍しい仕掛けに、「あれ、何だろう?」と興味深げに寄ってくる子どもが後を絶ちません。
(遊びながら手話を学べる「手話五十音パネル」)
中央にあるパネルを見ると、このゾーンの‶個性〟が分かります。「手話五十音」――。公園で遊びながら、自然と手話を学んでもらおう、手話の存在を知ってもらおう、という仕掛けです。大人も含めて、子どもたちは手話を学ぶ機会が殆どありません。もしかすると「手話を見たことがない」「そもそも手話を知らない」という子どももいるかもしれません。
でも、せめて自分や友だちの名前くらい手話で言えたら、何か嬉しいですよね。本格的に勉強をするのは難しくても、「遊具で遊びながら」「友だちと一緒」なら、きっと手話も身近になると思います。こうしたコンセプトは五十音パネルにとどまりません。
(すぐに子どもが真似するパネル)
遊んでいる最中、ふいに遊具の一角には、こんなパネルが現れます。
「知らないうちに覚えちゃうよ」
「うちわと一緒の動きなんだね」
そのほかにも、「ありがとう」「こんにちは」などいろんなパネルを設けており、最低限のコミュニケーションなら遊んでいるうちに覚えてしまうというわけです。
アイテムが豊富な「Nittoのユニバーサルコンビ」
Nittoのユニバーサルコンビですが、今回ご紹介したアイテムはほんの一部。実際には「ローラーすべり台」「トンネル」「まわるマッシュルーム」など、魅力的な遊びがたくさん。
(とにかく楽しい!「ユニバーサルコンビ」のパース)
「這って遊ぶと、景色がいつもと違うから楽しいね!」
子どもからは、こんな感想も聞かれます。そして、これこそがまさしくユニバーサルデザインの‶原点〟でもあります。
子どもなら誰でも――。
ユニバーサルコンビとは、決して車椅子の子ども向けの特別デザインというわけではないのです。健常者の子どもが這って遊べば、新鮮な閃きを感じたり、異なる体験を得たり、改めて「遊びって自由なんだ!」という快感を得るはず。そして普段と異なる身体の動きは、柔軟性や筋力をアップさせる効果もあります。
公園も、あらゆる条件の子どもたちに利用してもらいたい――。
これがNittoの想いです。
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