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「遊具のかかりつけ医」は、いつも街をまわってる――「ぶらんこ」

2021年05月07日メンテの裏側
  

「遊具のメンテナンス」を分かりやすく表現するなら、自動車メーカーで言うところの‶ディーラー整備工場″みたいな役割です。

1.壊れていないか検査する(=JPFA劣化診断)
2.車検に適合しているか検査する(=JPFA規準診断)

と、2つの観点から総合的に点検するわけです。JPFAとは遊具に関する「一般社団法人 日本公園施設業協会」の略称です。公園施設の安全性や・耐久性・快適性に関する調査・開発などを幅広く行っており、とりわけ遊具の遊びの価値と安全に注力しています。

つまり、「JPFAが定めた規準に適合する」ことが遊具の基本であり、そのために劣化診断と併せて点検することが‶遊具のメンテナンス″となります。現在は1年に1回以上の点検を行うことになっており、Nittoのメンテナンス部門は毎日、全国の公園を駆け巡っています。

さて、今回ご紹介するのは「ぶらんこの点検」です。定番遊具の1つですが、子どもからの人気が高いぶん部材の消耗は早く、チェックする箇所も多岐に渡ります。

ぶらんこを支える黒子たち

アニメや映画もそうですが、主役がカッコよく活躍するには、それを支える‶黒子″が必要です。主役をさりげなく助けたり、人知れず働いたり、脇役がいつもそばにいるから主役は本領を発揮できるわけです。

ぶらんこにもそんな黒子がいます。

「ぶらんこは、数ある遊具のなかでも劣化しやすい製品と言えます。毎日毎日、子どもを載せて揺れ続ける、つまりは『金属と金属が常にこすれ合っている』からです。そのうえ一年を通して雨風に晒され、真夏の猛暑や冬の雪にも耐えるなど、置かれた環境はとにかくハード。そんな働き者のぶらんこを支えるのが、じつは黒子である『本体』なんです」

こう語るのは、Nittoのメンテナンス担当者。ちなみに「本体」とは、ぶらんこを吊り下げる構造物の総称で、下の写真で言うと、水平にかけられた「梁」と地面に立つ「支柱」からなります。

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(落下高さを計測するNittoのメンテナンス担当者)*通常はヘルメットを着用していますが、今回は撮影のため脱いでいます。

本体がしっかりしていないと、当然ぶらんこで安全に遊べないですよね?ぶらんこほど大きく、そして激しく揺れる遊具は少ないでしょう。また子どもから人気が高いため利用頻度は高く、なおさら本体の安全性が重要というわけです。

そんな本体を点検するポイントの1つは「落下高さ」。ぶらんこは対象年齢(「3~6歳」もしくは「6歳~12歳」)によって落下高さの設定が異なるため、まずはその確認を行います。上の写真のように、専用の長い定規を用いて地面までの距離を計測します。

今回のぶらんこは6歳~12歳用なので、高さは2メートルを超えています。かなりの高さですね。それにしても、一度設置すれば高さは変わらないはずですが、なぜ毎回わざわざ計測するのでしょうか。

「1つは、念には念を入れてということです。想定した対象年齢と製品の設計が適切だろうか、再確認する意味から計測します。もう1つは、地面の状況が変化するためです。例えば雨水によって土が流れてしまったり、遊具の利用によってくぼみが生まれたり、歳月が経つにつれて地面や盛土の状態も異なります。補修する際は部品の規格も数センチ単位で合わせるなど、いろんな必要性から落下高さを計測します」

徹底した安全のためにJPFAの規準があるわけですね。さらに本体は次のような細かな部分まで点検します。

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(支柱の根本は土を掘って計測)

4本ある支柱の根元の1つです。「基礎が出ていないか」「深さは適切か」など、周囲の土を掘って計測します。見えない部分までしっかり点検するわけです。なお、設計上の適正な深さは10センチ以上。今回のケースは11.5センチなので、判定は「合」と診断します。

ぶらんこの‶黒子″は本体のほかにもあります。ぶらんこの周囲に設置された柵です。遊具業界では「境界柵」と呼んでおり、境界柵とぶらんことの距離も測ります。

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(ぶらんこから境界柵までを計測)

ぶらんこは前後に大きく揺れるため、必然的に遊ぶ範囲は広がります。計測することで、その範囲内に障害物がないかを確認します。なお、範囲は「落下高さ+1.5メートル内」となります。今回の落下高さは2メートル超だったので、写真の通りかなり余裕のあるスペースがあることが分かります。

シートから飛び出してしまうといった危険を想定して、範囲も広めに確保するようになっています。事実、昔と比べて境界柵の位置はぶらんこから遠ざかっています。

ぶらんこシートの裏まで点検する理由

さて、ぶらんこ本体の点検ですが、こちらも細かな部分までチェックします。子どもを乗せる‶本丸″なので当然と言えば当然ですが、保護者や子どもからすれば「え?そんなところまで点検するの?」というケースも少なくありません。

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(地面からシート下面までの高さを計測)

地面からシート下面までの距離を測ります。「35センチ~45センチ」が規準となっており、遊んでいる最中に転倒してもぶつかりにくい、という計算から導き出した数字になっています。今回のケースは43センチなのでクリアーです。

シートまでの距離計測はほんの序の口で、メンテナンス担当者はさらに細かい部分にまで目を光らせます。例えば、並んで設置されたぶらんことぶらんこの間隔もその1つ。

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(2つのぶらんこの間隔は規準に合っているかな?)

「ぶらんこをわざと斜めに漕ぐなど、やってはいけないことをやりたがるのが子どもです。このためいろんな可能性も含めて点検します。メンテナンスは、とにかく危険の芽を未然に防ぐのが役割です」

子ども同士が衝突しにくい距離を保っているか――。計測には専用のT字型工具を用います。JPFAの規準は‶実際の利用状況″を想定してつくられており、この場合は、「2人が手を開いて伸ばしても当たらない」距離になっています。

ちなみに両隣の間隔だけでなく、「前後に揺れやすいだろうか」「子どもが無理なく楽しめるだろうか」など、合わせてぶらんこの角度確認まで行います。ちょっとしたことですが、そんな‶点検の一手間″がぶらんこをよりスムーズに稼働させ、子どものワクワクを生み出します。

そして、さらに驚くのがこちらの写真。なんとシートの下側を確認しています!

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(技術の粋が詰まった「Nittoのぶらんこシート」)

シートは、子どものお尻が接する大切な部分。「底面からボルトが出ていないか。緩んでいないか」など‶裏の裏″まで点検して、子どもの安全を守ります。とりわけNittoの場合、ぶらんこに寄せる想いは特別なものがあります。

「じつは、ニットのぶらんこ国内シェアはおよそ4割にも上ります。当然、シート1つにも並々ならぬこだわりを持っています。『1人で座ったときに最も安定する形状はどんなだろう』とか、『もっと安全な材質はないだろうか』とか、今も昔も開発陣が心血を注いできた分野です。公園に設置されて、たくさん利用してもらって、いざこうやって使いこまれたシートを点検するたびに、そんなニットのこだわりを実感します」

もちろんシートのみならず、それを支えるチェーンも確実に点検します。吊り金具とシートをつなぎ、揺れる子どもの全体重を支える箇所です。強烈な負荷がかかるため、摩耗が進行しやすいポイントでもあります。ちなみにチェーンは「吊材」と言います。

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(吊り部材の摩耗状況を計測)

専用工具にて厚みを計測します。本来のサイズは直径13ミリのところ、今回は10.8ミリしかありません。僅かながら摩耗中のため、「b)軽微な劣化がある状態」と判定して報告します。判定にはa)~d)の4段階があり、今回は上から2つめに該当します。なお、最も低いd)判定になると、公園管理者の指示により‶使用禁止″とする場合もあります。

Nittoのメンテナンスは、遊具の「かかりつけ医」

本体、境界柵、シート、そしてチェーン――。ほぼぶらんこの全体像を網羅しているようで、それでも点検は完璧ではありません。まだ重要な部分が残っています。チェーンと梁をつなぐ部材であり、「吊り金具」と呼びます。

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(空を見上げたとき見える「吊り金具」)

「このカタチ、何となく見たことある」
という方も多いのではないでしょうか。ぶらんこを漕ぎながらふと空を見上げたとき、視界の隅に入ったのでしょうね。普段は気にすることもなく、もちろん触れるはずもない部材ですが、これもまた子どもの体重を支える立派な‶黒子″です。

「チェーンと接する黄色の部分ですが、所々で黒ずんでいますよね?汚れのほか、金属がこすり合うため、ぶらんこを使っていれば当然起きる現象で、そのため隅々まで点検するわけです。腐食や摩耗は問題ないレベルだろうか、ボルトは緩んでないだろうか、そのほか破損している箇所はないだろうかなどね」

チェーンを無理にねじったり、引っ張ったり、なかには巻き付けたりなど、子どもは想定外の遊びをすることもあります。金属は傷みやすくなり、意外な場所に傷がつくこともあり、吊り金具にまで影響は及びます。

「子どもは予期せぬ遊びをするものです。でも、そんなことも含めて幅広く、そして温かく見守るのがニットのメンテナンスです。早めに対応をすれば危険を未然に防げることは多く、例えばぶらんこのフックなどは定期的に交換しています。『ぶらんこと言えばニット』という気持ちで、日々公園を回っています」

遊具メーカーが抱えるメンテナンス部門なので、「遊具のことなら何でも知っている」のが強みです。また点検するだけでなく住民との交流も大切にしており、事実、公園で作業をしていると子どもから声を掛けられることもあります。

「ねえねえ、この遊具って壊れているの?」
「これはねえ・・・」

Nittoのメンテナンスが目指すもの――。
それは、あなたの街の「遊具のかかりつけ医」のような存在です。


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